調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第196回
2025.8.28

地域集団 信仰心の表れ

鴫山菊池家伝来の流旗

流旗(鴫山菊池家伝来、県指定有形文化財)、戦国時代か?=個人蔵、県歴史文化博物館保管
 集団のシンボルや目印として、旗は最も代表的なものである。本資料は、宇和郡布喜川村鴫山(しぎやま)組(西予市三瓶町)の組頭菊池家に伝来した旗である。南北朝時代の「重山文書」と同じ巻子に収められ、それらを含む家伝文書と合わせ、県有形文化財に指定されている。
 麻の生地に墨書した簡素なつくりで、幅は1尺余り(約35cm)であることから、反物を必要な長さに裁断して仕立てたとみられる。上端は折り返して細い筒状になっており、棒を通してひもでつる、小型の流旗(ながればた)と分かる。このような小型でシンプルな旗は、実用的で消耗するものでもあり、貴重な現存例といえる。
 上部には、中央に「伊勢天照大神宮」、向かって右(神名から見ると左)に「三嶋大明神」、左に「八幡大菩薩」(八幡神)の3柱を掲げる。三島大明神は伊予一宮大山祇神社の祭神で伊予国内に多くの分社を有し、氏神として祀(まつ)る地域も多い。八幡大菩薩は、武家の崇敬を集めた武神である。この並びは、現在でも神札を祀る際、中央に伊勢神宮、向かって右に氏神、左に他に崇敬する神社とする慣習とも共通する。
 本資料の特徴の一つは、神名とともに梵字(ぼんじ)が4行記されていること。右3行は仏の頭頂の徳を仏格化した大仏頂の真言、左端1行は胎蔵界大日如来の真言である。神仏習合の時代ならではともいえよう。
 次いで、旗の中央、引両線の上には大きく「三」を据える。三島大明神を指すと考えられ、伊予一宮への崇敬をうかがわせる。一方、下部には植物をモチーフにした三つ巴(どもえ)紋を描く。菊池家の家紋として受け継がれ、植物は藤と伝わる。
 当館では、以前に紹介した久保家伝来の流旗も含め、南予伝来の類似の旗3点を収蔵している。神名や文様は違うものの、いずれも麻地に墨書で、構図も伊予国の信仰的アイデンティティーともいえる「三」を中央に据えつつ、個別の信仰対象を上部に列記して信仰心を表明し、下部には社会的アイデンティティーとなる所属集団の文様を描くという共通性を見せる。
 地域の素朴な旗の中にも、使用した人々の精神世界が少なからず映し出されているのである。

(専門学芸員・山内治朋)

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