調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第3回
2017.8.9

一億玉砕の雰囲気醸す

志願兵募集ポスター

海軍志願兵徴募ポスター=昭和20(1945)年ごろ、県歴史文化博物館所蔵
 今年(2017年)は終戦から72年を迎える。実際に出征したり、空襲を経験した世代は、年々少なくなっている。
 今回ご紹介する資料は、今年が終戦から72年ではなかったかもしれない!?ことを思わせるポスターである。海軍が軍艦旗としていた旭日旗に戦闘機が描かれ、志願兵を募集している。しかし、よく見ると「昭和二十一年度採用」とある。つまり、このポスターは昭和20(1945)年の終戦前に、翌年も戦うつもりで作成されたものなのだ。作成時期は明確でないが、年度の替わる20年4月以降の可能性が高い。
 募集内容をみてみると、水兵・整備兵・機関兵・工作兵・衛生兵・主計兵は大正15年12月3日から昭和5年12月2日までに生まれた者となっている。募集が昭和20年4月末だとすると、14歳から18歳が対象となる。18歳を上限としているのは、昭和19年に徴兵検査の年齢を19歳にしたからだろうか。
 さらに、少年水兵と飛行予科練習生は昭和7年4月1日までに生まれた者とあり、まだあどけない13歳でも「志願兵」となることを期待しており、「一億玉砕」の雰囲気を感じる。
 試験内容は身体検査と学力試験。身体検査は「年齢ニ依リ差異アリ」として、年齢に応じた検査が行われたようだ。学力試験は「国民学校高等科修了程度」で、年齢で言えば現在の中学校2年生に当たる。
 幸いこのポスターは使用されなかった。願書締め切り期日も空欄である。恐らく終戦になったため、使用されなかったのだろう。
 当館では戦時資料の収集と戦争体験者からの聞き取り調査を行っている。資料が語る情報には限界があり、それを補うのが戦争体験者の記憶だ。戦争の悲惨さと平和の大切さを次世代に伝える上で、これから10年の聞き取り調査が勝負だ。

(専門学芸員 平井 誠)

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