調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第15回
2018.2.3

姫の人気ペット精巧に

狆の毛植人形

西条藩松平家に伝わる狆の毛植人形。右の親犬の背には手綱を握る猿の姿も=江戸時代後期、県歴史文化博物館蔵
 今年(2018年)の干支は「戌(いぬ)」。現在も人気の動物だが、江戸時代のお姫さまの間でもペットとして犬を飼うことが大流行した。
 薩摩藩島津家の江戸菩提寺だった大圓寺跡(東京都三田高輪)の発掘調査では、犬の墓石が4基確認された。その一つには「文政十三年庚寅/素毛脱狗之霊/高輪御狆白事」と記されている。戒名を与えられ手厚く葬られた犬種は「狆(ちん)」。小さい体、白に黒のぶち模様、ふさふさした毛を併せ持ち、室内での飼育に適していた。この狆は、近くにあった薩摩藩島津家の屋敷で飼育されていた可能性が指摘されている。ほとんどの時間を屋敷の中だけで暮らすお姫さまにとって、この小さな生き物は、心を癒す唯一無二の友となっていたことだろう。
 人気のペットだった狆は、西条藩松平家に伝わる毛植(けうえ)人形にもその姿を見ることができる。毛植人形は別名「いと細工」とも呼ばれ、京都の特産品だった。その名の通り、張り子のボディーに絹のすが糸(よりのかかっていない生糸)を丹念に貼り付け、動物の毛の流れを精巧に表現したものである。主に、犬・猿・ウサギといった小型の動物が多く作られた。
 本資料では、母犬が見守る中で赤白の綱に戯れる子犬たちや犬の背に乗り手綱を握る猿がモチーフとなっている。「犬猿の仲」とも言われる両者の組み合わせからは、職人の遊び心も垣間見える。
 西条藩9代藩主松平頼学(よりさと)の娘哲子(さとこ)の和歌をまとめた巻物を広げると、草花模様の料紙に交じって狆が描かれた料紙も好んで用いられており、お気に入りの柄だったことがうかがえる。人形や文具といった身の回り品に、お気に入りを集める女子力は、今も昔も変わらないようである。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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