調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第17回
2018.3.4

庭園ジオラマ 曲水の宴

御殿飾り

貴族が和歌を詠む「曲水の宴」を表現した御殿飾り=1890(明治23)年ごろ、県歴史文化博物館蔵
 3月3日は、ひなまつり。上巳(じょうし)の節句と呼ばれ、ひな人形を飾り女児の健やかな成長を祝う年中行事の一つである。現在のように人形を飾ってお祝いするひなまつりが定着するのは、今から150年ほど前の江戸時代の終わりといわれている。
 紹介するひな飾りは、御殿(ごてん)飾りと呼ばれ、小さな建物と共に人形を飾る。江戸時代後期に京都や大坂で作られると、西日本を中心に流行した。若い人の目には奇異に映るようだが、それもそのはずで、御殿飾りは1960年代半ばを境に姿を消す、ひな飾りの絶滅種ともいえる。
 この御殿飾りは、松山市堀之内にあった県立歴史民俗資料館の閉館に伴い、2005年に当博物館へ移管された資料の再整理中に見つかった。御殿のパーツは、全部で59個。岩や草花が付属するさまざまな形状のパーツは10個。まるで複雑なパズルのようで苦戦したが、なんとか全貌を復元してみることができた。
 御所を模した御殿の手前には、滝が流れる庭園が広がる。小川沿いに内裏雛(だいりびな)をはじめ、平安装束を着付けた人形たちを配置してみると、和歌を詠む貴族の遊び「曲水(きょくすい)の宴」が表現されていることが分かった。
 この御殿飾りを同僚学芸員に見せたところ、かなり昔に八幡浜市の方が県立美術館へ出品したものかもしれないという情報を得た。その方に連絡をとると、後日、1971年3月4日の写真入り新聞記事のコピーが届いた。まさしくこのひな飾りで、約35年ぶりの再会となった。
 愛媛で有名なひな飾りに八幡浜市真穴地区の座敷雛(ざしきびな)がある。座敷雛はひな人形の周囲に山野の情景がジオラマセットのように飾りつけられる。曲水の宴を再現した御殿飾りも庭園ジオラマ付きで、1回限りか毎年飾れるかの違いはありながらも、類似性が感じられる。同じ市内でこのような類似したひな飾りが見られることは、その地域性を考える上でも興味深い。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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