調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第21回
2018.5.3

鱗描き方と尻びれ特徴

鯉のぼり

1949年ごろに八幡浜市で制作された鯉のぼり=県歴史文化博物館蔵
 「おもしろくふくらむ風や鯉幟(こいのぼり)」正岡子規の俳句にも詠まれた鯉のぼり。今でも五月晴れの青空と風にたなびく鯉のぼりの様子は、なんともほほ笑ましい初夏の風物詩となっている。
 鯉のぼりの歴史もまたひな飾りと同様に、江戸時代中期ごろが始まりといわれ、江戸時代の終わりに関東を中心に流行した。登竜門伝説(鯉の滝登り)という中国の故事を描いた縦長の幟が鯉のぼりのルーツといわれ、平面で描かれていた鯉を立体化して青空の下で泳がせたのは、さすが江戸っ子らしい粋な発想といえるだろう。
 紹介する鯉のぼりは、1949(昭和24)年生まれの男児の初節句に合わせて、若松旗店(八幡浜市)で制作されたものである。黒色の真鯉(まごい)と緋(ひ)色の緋鯉は、どちらも全長は約5.8m。色の濃淡や、豊かな筆づかいは、手染めならではといえる。
 この鯉のぼりには一般的な鯉のぼりとは異なる珍しい特徴が二つある。
 一つは、真鯉と緋鯉を見比べると、鱗(うろこ)の描き方が異なることである。真鯉の鱗は、鋭角な縁どりと黄色によって鱗をシャープに見せている一方、緋鯉の鱗には、丸い縁どりと淡い朱色と白色で丸みをより一層引き立たせている。同じ寸法の鯉のぼりでありながら、緋鯉の方が丸みを感じるのは描き方の妙ともいえる。
 もう一つの特徴はひれの数である。鯉のぼりには、背びれと尾びれ、腹側に胸びれ、腹びれの合わせて四つのひれが付くことが一般的といわれるが、まれに尻びれが付く場合があるそうだ。この鯉のぼりのひれを数えていくと、五つめのひれである尻びれが丁寧に付けられている。
 博物館では、この鯉のぼりにグラスファイバー製の棒を組み合わせた骨組みを取り付け、天井からつって展示している。あたかも風を受けて泳いでいるかのような鯉のぼりの姿からは、リアルな鯉を表現しようとした職人の心意気が伝わってくるようである。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

 鯉のぼりは、ゴールデンウィーク期間を中心に不定期で展示している。

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