調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第51回
2019.8.9

じゃんけんの「元祖」か

狐拳人形(庄屋・猟師・狐)

狐拳を表現した磁器人形。左から庄屋、猟師、狐の面をつけた女の子=製作年代は昭和初期ごろ、県歴史文化博物館蔵
 2年ほど前(の2017年)、昭和初期のひな人形を調査するため、県内の個人宅にお伺いした時のこと。箱から人形や道具を一つずつ取り出して確認していると、高さ4.8cm前後の小さな磁器人形が3体でてきた。
 ちょんまげ頭に袴(はかま)姿の男性と、頭巾をかぶり鉄砲を持つ猟師、狐(きつね)のお面をつけた女の子。3体一組に違いないが、なぜこの組み合わせなのか、持ち主の方に尋ねてみた。
 すると、「しゃんしゃんしゃん、おしゃしゃのしゃん」という遊びのことだという。そう言われても何のことかさっぱり分からない私に、人形を手に遊び方を楽しげに話してくださった。ちなみに、ちょんまげ頭で膝に手を置く人形は、庄屋さんだという。
 遊び方はいたってシンプル。「しゃんしゃんしゃん」と言いながら膝をたたいた後で「おしゃしゃのしゃん」の掛け声で、じゃんけんのように手のしぐさをして勝負をするという。人形と同じように膝に手を置くと庄屋、拳を胸の前において鉄砲を構えると猟師、手のひらをそろえて頭に添えおくと狐といった具合だ。
 庄屋は化かされてしまうため狐に弱く、猟師は鉄砲で撃つため狐に強いが庄屋に頭が上がらないので庄屋に弱い。つまり3人にはお互いに得意な相手と苦手な相手が1人ずついる、三すくみのじゃんけんと同じ関係性で勝ち負けを決めているのだ。
 博物館に戻って調べてみると、江戸時代にお座敷遊びとして流行した狐拳(または庄屋拳や藤八拳)という拳遊びに当たることが分かった。じゃんけんの元祖といったところだろうか。
 この人形と聞き取りのおかげで、昭和初め頃まで県内でも子どもたちが狐拳で遊んでいたことが確認できた。しかし、今ではじゃんけんに取って代わられてしまい、狐拳は忘れられた遊びになっている。
 人形たちを見ていると、「しゃんしゃんしゃん、おしゃしゃのしゃん」という子どもたちのかわいらしい掛け声が今にも聞こえてきそうだ。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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