調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第88回
2021.2.26

教養の高さ感じる作品

成等院哲子詩歌巻

哲子の和歌を貼り交ぜにした巻子。犬の絵柄が刷られた料紙が使われている。江戸時代後期。同館蔵
 みなさんは「大名家のお姫さま」というと、どんなイメージをお持ちだろうか。豪華な婚礼調度を思い浮かべる方も多いかもしれないが、お姫さまが実際にどんな人生を歩んだのか調べるのは意外と難しい。
 当館は成等院哲子(せいとういんさとこ)が詠んだ漢詩や和歌をまとめた2巻の巻子を収蔵している。哲子(靖とも呼ばれる)は、西条藩9代藩主松平頼学(よりさと)と正室通子(ゆきこ)の娘にあたる。第1巻は哲子直筆の漢詩や和歌計39首の短冊や色紙などが貼り交ぜて仕立てられたもの、第2巻は西条藩の儒学者上田節が250首を超える作品を集めて書写したものとなっている。
 特筆すべき点は、第2巻の巻末に哲子の生涯が簡単に紹介されていることである。それによると、哲子は1825(文政8)年生まれ。三史五経を漢学者細井平洲の門人で西条藩の儒学者となった上田節に、そして和歌を京都の公家一条家出身の母通子に学んでいる。
 その他にも、琴・茶道・華道・香道も身につけたとあるが、おそらくこれらも母通子に教わるところが大きかったであろう。哲子の結婚は、1844(弘化元)年。陸奥守山藩4代藩主松平頼慎(よりよし)の三男頼永を婿養子として迎え婚姻が結ばれているが、結婚後まもない弘化3年に病にかかり、哲子は20歳の短い生涯を終える。
 哲子の作品からは、大名家のお姫さまとして育てられた教養の高さが感じられる。和歌がしたためられた色とりどりの短冊や花模様や犬が刷られた料紙などをみていると、今も昔も変わらず乙女心をくすぐるファンシーな文具が作られ、彼女の暮らしに彩りを与えていた様子もうかがえる。
 この巻子は、母通子にとって最愛の娘をしのぶ形見として作られたものと考えられるが、そのおかげで短いながらも多くの教養を身につけ、聡明(そうめい)な女性として成長していった彼女の人生をうかがい知ることができる。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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