調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第107回
2021.12.9

黎明期の大規模小売店

松山スーパーマーケット開店ポスター

松山スーパーマーケット開店ポスター。1957(昭和32)年。県歴史文化博物館蔵
 現在、私たちの暮らしに身近な存在となったスーパーマーケット。スーパーマーケットとは、食料品を主体に日用雑貨や衣料品など家庭用品全般を取りそろえ、セルフサービス方式で販売を行う大規模小売店のことである。その発祥は、1930年代のアメリカで、日本では東京の青山に1953(昭和28)年開店の「紀ノ国屋」、県内では1957(昭和32)年開店の「主婦の店」(現在の松山市大街道1丁目)が最初とされている。
 今回紹介するのは、鮮やかな赤色の背景と左端いっぱいに書かれた「松山スーパーマーケット」の大きな文字が目を引くポスター。「開店12月21日」の日付しかないが、「立花橋南詰、元高市商店跡地」(現在の松山市立花1丁目)の文字情報をもとに愛媛新聞の記事を調べてゆくと、1957(昭和32)年12月20日付に松山スーパーマーケットの開店広告を見つけることができた。今から64年前、スーパーマーケット黎明(れいめい)期のポスターだった。
 中央には、エプロン姿の母親と女の子がおしゃれな包装紙に包まれた商品を抱えて楽しげに歩く姿が描かれている。その周りには、「食料品」「家庭用品一切」「現金で大量仕入」「なぜに安いか!」「奥様方の必ずお気にめす値段」「エプロンで気軽に!」のキャッチフレーズが踊っている。全体的に昭和30年代に特徴的な丸みや流線型のデザインが見てとれる。
 開店日の下には小さく「開店日より五日間五百円御買上毎に映画の御招待券進呈」の文字が見える。昭和30年代に映画は庶民にとって人気の娯楽の一つであった。県内には、1956(昭和31)年に151館あった映画館が、翌年には201館に増加。そのうち35館が松山にあり、多くの映画館がひしめき合っていた。映画の招待券がスーパーマーケット開店の客引きに利用されたのも、そんな時代背景があったからだろう。
 このポスターには、「松山浴場協同組合」の押印があり、銭湯に貼られていたものと考えられる。湯上がりの人々が目にしたこのポスターは、スーパーマーケットに多くのお客さんを招いてくれたことだろう。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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