調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第136回
2023.3.6

紙製 素朴なたたずまい

土佐立雛

土佐立雛(左、明治時代)と「雛百種」。ともに県歴史文化博物館蔵
 ひな人形は、さまざまな姿のものが生み出されてきた。たとえば、立っているか、座っているか、といった姿勢の違いがある。
 今回紹介するのは、立ち姿のひな人形。立雛(たちびな)の多くは紙で作られていたことから、紙雛とも呼ばれる。最も古いひな人形の形式とされ、男雛(おびな)は腕を広げたヒトガタのような姿、女雛(めびな)は筒状に丸めた着物姿である。
 この立雛は、八代村(八幡浜市)の庄屋菊池家に伝わったひな飾りを収納する箱の片隅から見つかった。主な素材は紙、男雛女雛ともに立雛の古い形式を踏襲した素朴なたたずまいの人形だ。
 博物館では参考資料として、大正時代に出版された「雛百種(ひなひゃくしゅ)」を収蔵している。本書は、日本画家西沢笛畝(てきほ)らが、百種類ものひな人形を写生し、素材や大きさなども併せて紹介した木版多色刷りの和綴(と)じ本で、いわばひな人形の図鑑のようなもの。ページをめくっていると、「土佐卯之町立雛/紙製泥絵/現寸二分ノ一」と記載のある立雛に目が留まった。男雛や女雛の着物の色彩や模様、男女の大きさの著しい違いといった特徴がぴったり一致しており、菊池家の立雛がこの立雛であることは間違いない。他にも伊予市の商家のひな飾りの箱からもこの立雛が見つかっており、県内でも広く流通していたのではないだろうか。
 続いて気になったのが「雛百種」に記された「卯之町」の地名。当館が立つ卯之町と何か関係があるのだろうか。しかし「郷土玩具辞典」等を調べても土佐立雛の項はあるが、卯之町に関する記載は見当たらない。高知県の紙の産地に伊野町(現・いの町)があるので誤記なのかもしれない。
 「雛百種」のはしがきに笛畝は、人形の素材によっては永く保存が難しいことを憂い、人形の姿を後世へ伝えるためにまとめたと記している。土佐立雛のように素朴な紙製のひな人形は、その役目を終えると供養に出される頻度も高く見つかりにくい。「雛百種」によって土佐立雛の存在を知ることができたが、この立雛の生産地やどのくらい流通していたか、謎は深まるばかりである。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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