調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第146回
2023.7.29

鳥モチーフ 死生観表す?

今治で出土 2面の銅鏡

(上)画象鏡 (下)獣紋鏡(古墳時代前期後半)=ともに相の谷1号墳出土、県歴史文化博物館保管。
 本連載で過去に紹介したことがある今治市の県内最大の前方後円墳「相の谷1号墳」からは2面の銅鏡が出土している。
 1面は禽獣画象鏡(きんじゅうがぞうきょう。径12.6cm)という中国後漢時代後期(2世紀後半)のものである。鳥像と獣像をモチーフにしており、約40片の破片で出土した。どの段階で破片になったかは不明であるが、割れ方からは石槨(せっかく)内のかく乱時、または、土圧による破砕の可能性が高い。
 保存処理作業によるクリーニングの結果、新たに2文字の銘文を判読することが可能になるとともに獣像の表現が明確になった。また、復元にあたっては割れていた破片を接合し、欠損している部分は樹脂で修復した。
 銘文については従来「作竟真大」が判読されていたが、「氏」と「山」が新たに判読できた。その結果、「(龍?)氏作竟真大(巧上有)山(人)」という漢詩が銘文となっている可能性が浮かび上がってきた。鏡の銘文は七言句をつなげるものが多く、類例から「(龍?)氏作竟真大巧上有山人不知老」の一部を省略したものと考えられる。
 獣像の表現では、鳥像の羽根、くちばし、頭部、脚部と獣像の脚部の表現がより明確となった。
 もう1面は、鼉龍鏡(だりゅうきょう。径11.6cm)と呼ばれる倭鏡(国産の鏡)である。鼉龍とは、ワニをモチーフとした獣とされている。この鏡は中国で製作された画紋帯神獣鏡という鏡をモデルに製作されたと考えられている。
 資料は、石槨のほぼ中央で、背面(紋様のある面)を上にした状態で、完形で出土している。しかし、調査時には2次的移動を想定しており、副葬された位置を保っていないと思われる。
 クリーニングの結果、鏡のモチーフである4体の獣の形が明確となった。それぞれには羽状の表現が認められ、くちばしと思われる表現が3体で確認できることから、これら4体の獣は「鳥」を表現したものと推察され、鼉龍が表現されていないことから「獣紋鏡」という名称が適当であろう。
 「鳥」をモチーフにした2面の銅鏡を、当時の人々はどのように理解していたかは判然としないが、魂をあの世に運ぶなど当時の死生観を表したものではないかと考えている。

(専門学芸員 冨田 尚夫)

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