調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第152回
2023.10.21

古代伊予地名 14郡72郷

和名類聚抄

平安時代中期成立、1671(寛文11)年刊=県歴史文化博物館蔵
 「和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)」は承平年間(931~938年)に源順(みなもとのしたごう)が編さんした辞書であり、平安時代当時の官職や衣食住の道具、動植物などさまざまな事柄を解説している。そして多くの語句に万葉仮名で和訓が付されており、その数は3千件に達するなど、古代の言葉を知る上で重要な文献である。
 今回紹介する資料は1671(寛文11)年の版本であり、江戸時代に広く流通し「流布本」と称され、全国の多くの博物館等で収蔵されている。
 この「和名類聚抄」の「国郡部」には全国の約600の郡名と約4千の郷名が記載される。伊予国(愛媛県)については宇摩郡(山田・山口・津根・御井・余戸)、新居郡(新居・丹上・島山・花・賀茂・神戸)、周敷郡(田野・池田・井出・吉田・石井・神戸・余戸)、桑村郡(籠田・御井・津宮)、越智郡(朝倉・高市・桜井・新屋・拝志・給理・高橋・鴨部・日吉・立花)、濃満郡(宅万・英多・大井・賞多・神戸)、風早郡(粟井・河野・高田・難波・那賀)、和気郡(高尾・吉原・姫原・大内)、温泉郡(桑原・埴生・立花・井上・味酒)、久米郡(天山・吉井・石井・神戸・余戸)、浮穴郡(井門・拝志・荏原・出部)、伊予郡(神前・吾川・石田・崗田・神戸・余戸)、喜多郡(矢野・久米・新屋)、宇和郡(石野・石城・三間・立間)の全14郡、72郷の地名が見える。
 さらに松前町岡田とされる「崗田」の訓に「乎加多(ヲカタ)」、大洲市新谷とされる「新屋」に「爾比也(ニヒヤ)」、八幡浜市矢野町とされる「矢野」に「也乃(ヤノ)」など当時の呼び方がわかる例も多い。
 他にも現在まで続く地名として「津根」(四国中央市土居町)、「田野」(西条市丹原町)、「桜井」、「日吉」(今治市)、「姫原」、「桑原」、「井門」(松山市)、「吾川」(伊予市)、「久米」(大洲市)などが挙げられ、「河野」(松山市)は「加波乃(カハノ)」とあり現在の読み方と異なる例も見られる。
 平安時代当時、伊予国の政治をつかさどる国府が設置されていた越智郡(今治市)には10郷を数え、伊予国内で最も多い。一方、郷数が少ないのが南予地方である。現在の西予市以南の宇和郡には「石野」、「石城」(西予市宇和町)、「三間」(宇和島市三間町)、「立間」(宇和島市吉田町)の4郷があり、必ずしも現在の自治体の中心部と重ならない。
 これらの地名は、現在にいたるまで千年以上も継承されており、地域の歴史が古代からどのように変遷したのかを考える上で一つの指標となるといえるだろう。

(専門学芸員 大本 敬久)

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