調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第155回
2023.12.16

山門や道中 尽きぬ魅力

歩き遍路旅描いた金盛弥氏の版画

(上)金盛弥「四国第四十五番 岩屋寺」(四国八十八カ所霊場 山門)
(下)金盛弥「元遍路宿 坂本屋」(遍路道小景)
=ともに県歴史文化博物館蔵
 元大阪府副知事の金盛弥(かなもりわたる)氏は、2000年以来、歩いて四国遍路をまわり、四国八十八カ所霊場の全札所の建造物(山門、大師堂、塔)や、別格・番外霊場、遍路道の風景などを描き、多色刷りの美しい版画による絵はがき作品を精力的に制作している。
 金盛氏は制作の動機について「初めての歩き遍路で、四国八十八カ所霊場の山門はすべて特徴的であり、どの寺でもその姿を変えて現れることに、版画の制作心をくすぐられ、全山門を彫ってみたい」と語る。
 シリーズ「四国八十八カ所霊場 山門」は金盛氏の代表作で、JR四国マリンライナーの車内展示、日本郵便四国支社発行の日本遺産認定記念切手「四国遍路」の切手シートを挟む台紙の挿絵として採用された。
 金盛氏が描いた全札所の山門を注視すると、その構造が多種多様であることがわかる。愛媛の札所を例にすると、楼門(第51番石手寺等)、八脚門(第53番円明寺等)、唐門(第47番八坂寺)、鐘楼門(第45番岩屋寺等)、高麗門(第50番繁多寺)、神仏習合の面影を残した鳥居(第41番龍光寺)や、山門がない札所(第46番浄瑠璃寺等)も確認できる。
 岩屋寺の鐘楼門は、江戸時代の旧遍路道(八丁坂)を歩くと、岩屋寺の入り口となる山門である。自動車を利用した遍路の場合、参拝道で山門を通らない札所も多い。
 また、遍路道小景シリーズでは、歩き遍路で最も長い時間を過ごす遍路道の光景にスポットを当てている。地域の人々の善意で各地に設けられた遍路休憩所、松山市窪野の坂本屋などの元遍路宿、遍路道標、遍路墓などが描かれている。
 金盛氏が歩き遍路の旅で制作された数々の版画からは、四国霊場の札所にさまざまな見どころがあることがわかり、四国遍路の歴史に興味関心を持つきっかけとなる。歩き遍路を通じて、自分の感性で四国遍路を楽しむことの素晴らしさや、四国路には無限の魅力が存在することも教えてくれる。

(専門学芸員 今村 賢司)

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