調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第156回
2023.12.23

97歳が伝える民俗技術

日よけ用のスゲミノ

スゲミノ=2013年製作、県歴史文化博物館蔵(幅49.0cm 長さ96.0cm)
 この大きなミノムシのような形状の資料は、スゲ(菅)という植物で編まれたミノ(蓑)である。ミノとは日光や雨風、雪を防ぐための外衣であり、ワラやスゲ、シュロなどの植物の茎や葉、皮を編んで作られる。
 現在では、ミノを作ることができる人はほとんどいないが、本資料は2013年に開催した特別展「民具王国びっくりミステリーツアー」の体験用資料として、西条市在住の女性に依頼して製作した。1926(大正15)年生まれの女性は西条市の山間部、今宮地区の出身で、小学5年生ごろに祖母に作り方を教わったという。当館での調査当時86歳であったが、製作方法だけでなく、使用していた様子も話してくれた。
 製作方法は、ツクと呼ばれる木の台に、両側に石をくくりつけたシュロのひもをかけ、前後に振り分けながらスゲを編み込んでいく。スゲには表面と裏面があるので、表面を外に出すように、襟の部分から編み始めていく。「マセを入れる」(ミノが扇状に広がるように編んでいく作業)のが特に難しいという。
 ミノには、主に日よけと雨よけの役割があり、本資料のように袖がないミノはセナミノ(セミノ・背蓑)と呼ばれ、日よけ用として夏に草取りなどの作業で使った。雨よけのミノは水をはじくため一日中使用可能で、使用後は水を切って日に当てて干し、納屋へしまった。
 スゲミノは「使用しているうちになじむ」ことはなく、部分的に修復することもできないが、きちんと管理すれば2~3年は使用できたという。昭和20年代後半に合成ゴムのかっぱが登場し、ミノに取って代わり始めたため需要がなくなっていった。
 特別展の終了後、スゲミノは民俗展示室2「山のいえ」の壁面に展示している。小学校の団体などを対象にした「昔のくらし」体験プログラムでは、実際に身に着けてもらっている。表は細長い葉がフサフサしており、背負った際にチクチクと肌を刺すイメージがあるが、裏側は細かな編み目となっており、子どもたちはその着心地の良さに驚くことが多い。
 驚くといえば、本資料の製作者は、今年(令和5年)10月19日に西条市小松公民館においてミノ作りの実演会(小松史談会、小松公民館、小松温芳図書館・郷土資料室共催)を行った。御年97歳である。「コンのいる作業」と話しながら、10年前と変わらぬ製作技術と笑顔で、手を休めることなくスゲミノを編み上げていた。
 ミノは今では使用されなくなった民具だが、資料の保存はもちろん、その製作技術(無形民俗文化財としての民俗技術)を後世に伝えていくことも、博物館の使命の一つである。

(専門学芸員 松井 寿)

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