調査・研究えひめの歴史文化モノ語り

第160回
2024.2.24

まねごと通じ家事学ぶ

ひな飾りの水屋道具

水屋道具。明治時代、県歴史文化博物館蔵。
 (2024年)2月4日、春の季節の始まりとされる立春を過ぎ、そろそろひな人形を飾り始める家庭も多いのではなかろうか。現在では大掛かりなひな段をこしらえて、たくさんの人形や道具を飾ることは少なくなったが、明治から昭和初期の古いひな飾りにはいろんな人形や道具が混在していることが多い。
 今回紹介する水屋(みずや)道具もその一つ。水屋=台所の道具をミニチュア化したものである。ひな道具といえば、漆塗りに蒔絵(まきえ)が施された婚礼調度を思い浮かべがちだが、この水屋道具からはそんな豪華さは感じられない。
 向かって右には「おくどさん」と呼ばれるかまどと神棚、中央に井戸、左側には包丁、お玉、しゃもじ、おろし金など調理道具が並ぶ流し台の3つの区画に分かれており、味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)を入れる樽(たる)、桶(おけ)、すり鉢や片口など台所道具のすべてがセットされている。右上に配置された神棚をよく見ると、火事を防ぐ力があると考えられている布袋さんの土人形もちゃんと祀(まつ)られている。台所という場所を忠実に再現しようとしたこだわりには驚かされる。
 水屋道具は、大阪や京都を中心にひな道具として飾られていたといわれており、県内に伝わった古いひな飾りにも見ることができる。女の子たちは、このミニチュアの台所でままごと遊びを楽しみつつ、家事を覚えていったのだろう。
 このほかにも県内では、ひな人形を飾った部屋に女の子たちが集まり、お弁当やお祝いのお膳を食べる風習があった。ひなの節句は、人形を飾ってお祝いするだけでなく、女の子たちが大人のまねごとを通じて家事や作法を楽しんで学ぶ絶好の機会でもあった。

(専門学芸員 宇都宮 美紀)

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